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十年後のあなたに触れられて|再会した元恋人と、夫には見せない私【官能小説】

同窓会の夜、十年ぶりに再会した元恋人と、雨宿りに立ち寄ったホテルで——。忘れたふりをしていた女の欲望が、たった一度の熱で目を覚ます。専属小説家・北村沙織が描く、人妻の「再会」官能小説です。ひとりの夜のお供に、どうぞ。

同窓会の帰り道だった。

駅までの十分を、どうしてこの人と二人きりで歩いているのだろう。理由なんて、本当はわかっている。わかっていて、私は「途中まで一緒に帰らない?」という声を、断らなかった。

隣を歩く志島くんは、十年前より少しだけ痩せて、少しだけ大人になっていた。学生の頃、私が初めて心から好きになった人。初めて肌を重ねた人。そして、私がいちばんひどい別れ方をした人。

「結婚したんだってね」

信号待ちで、彼が前を向いたまま言った。左手の薬指を、私は無意識に右手で隠していた。

「うん。……三年前に」

「幸せ?」

その問いに、すぐ「うん」と言えなかった自分が、いちばんの裏切りだったのだと思う。不幸ではない。夫は優しいし、生活には何の不満もない。ただ――もう長いこと、私は自分の体が濡れるということを、忘れていた。義務のように交わされる夜と、静かにすれ違っていく朝。それを幸せと呼ぶのだと、言い聞かせて暮らしていた。

「サオリは、昔から嘘が下手だったよね」

彼が笑った。その笑い方が、十年前とまったく同じで、私の奥のほうが、ずくりと疼いた。ずっと錆びついていたはずの場所が、たった一言で目を覚ましてしまう。体というのは、どうしてこんなに正直なのだろう。

雨が降り始めた。彼が差し出した傘の中に、私は当たり前のように入った。肩が触れる。彼の腕の熱が、濡れたブラウスの布越しに伝わってくる。ただそれだけのことで、私の呼吸は浅くなっていた。

「……少しだけ、雨宿りしていかない?」

そう言ったのが自分の声だと気づくのに、一拍かかった。彼は何も言わず、ただ私を見た。その目が、答えのすべてだった。


ホテルの部屋のドアが閉まる音が、やけに大きく響いた。もう、引き返せない。引き返す気なんて、駅で傘に入った瞬間からなかったくせに。

「濡れてる」

彼が、私の髪から滴る雨のしずくを指で拭いながら言った。雨のことだと、わかっている。わかっているのに、その言葉が別の意味を連れてきて、私の膝は小さく震えた。

背中に回された手が、ブラウスのボタンを一つずつ外していく。焦らすでもなく、乱暴でもなく、ただ丁寧に。夫の手つきとは、まるで違った。夫は私の体を「済ませる」ように触る。けれど彼の指は、私の体を「読もう」としていた。十年前、何度も何度も、私の反応を確かめるように触れた、あの指のまま。

「変わってないね、ここ」

鎖骨のくぼみに唇を落とされて、私は声を漏らした。自分でも驚くほど、甘い声だった。こんな声が、まだ私の中に残っていたなんて。

彼の手のひらが、乳房を包む。親指の腹が、硬くなった先端をゆっくりと転がした瞬間、腰の奥に電流のようなものが走った。「あっ」と、みっともなく背中が反る。恥ずかしい。三十を過ぎた女が、たった一度触れられただけで、こんなに。

「感じてる顔、昔よりずっといい」

耳元でそう囁かれて、私は顔を隠そうとした。けれど彼はその手をやわらかく外し、「見せて」と言った。夫の前では、私はいつも顔を背けていた。乱れる自分を見られたくなくて。でも彼の「見せて」には、抗えなかった。見られたい、と思ってしまった。この人になら、いちばん恥ずかしい私を、明け渡してもいいと。

ベッドに沈められ、彼の唇が体の線をたどって降りていく。みぞおち、へそ、腰骨。その一つひとつに、彼は時間をかけた。太ももの内側に彼の吐息がかかったとき、私はもう、自分がどれほど濡れているかを知られてしまうことに、頭が真っ白になっていた。

「ずっと、我慢してたんだ」

それは私への言葉なのか、彼自身のことなのか、わからなかった。ただ、彼が触れた瞬間、私の体はあまりにも素直に応えて、こらえていたものが一気にあふれた。声を抑えることも、もうできなかった。夫との夜、私はいつも静かだった。静かに終わらせるのが、大人の女だと思っていた。けれど今、私は自分でも聞いたことのない声で、彼の名前を呼んでいた。

波が来る。遠くから、確実に。忘れていたはずのその感覚に、私は怖くなって彼のシャツを掴んだ。「大丈夫」と彼が言う。「俺がいるから」。その一言で、私は堤防が決壊するように、十年ぶりの絶頂に飲み込まれた。全身が痙攣して、頭の芯まで白く濁って、涙が滲んだ。快感で泣いたのなんて、いつぶりだろう。


事が終わって、彼の腕の中で息を整えながら、私は天井を見ていた。罪悪感が来るかと思った。でも、来なかった。代わりに来たのは、途方もない悲しみだった。

私は、自分がまだこんなふうに濡れる女だったことを、思い出してしまった。もう二度と、あの静かな夜に、何も感じないふりで戻れる気がしない。

「……これっきりに、しようね」

私が言うと、彼は少し笑って、私の髪を撫でた。肯定も否定もしない、その優しさが、いちばん残酷だった。

窓の外で、雨はまだ降っていた。私は薬指の指輪を、そっと右手で包んだ。さっきまで隠していたのと同じ手で。今度は、隠すためではなく――確かめるように。

(了)

沙織より
十年ぶりに筆をとりました。女の体は、心よりずっと正直です。忘れたふりをしていた欲望が、たった一言、たった一度の熱で目を覚ましてしまう――そんな瞬間の、後ろめたさと甘さを描きたくて。次は「人妻の女性用風俗デビュー」を書く予定です。感想やリクエストは体験談ページの投稿フォームからどうぞ。

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