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そこで、いつも閉じていた
私は二十九歳になっても、あと一歩のところで必ず自分を止めていた。膝を閉じ、腰を引き、間の悪い笑いでごまかす。体が先に知っている場所がある。そこを越えると、何かが出てしまう。出してはいけないものだと、ずっと信じてきた。
快感のいちばん濃いところまで来ると、下腹が熱くなって、内側が勝手に開きたがる。その瞬間に私は蓋をする。太ももを寄せ、律の腰を手で押し返す。シーツが汚れるのが怖いのではない。汚いと思っていた。粗相だと、ひとりで決めていた。
律は三十二歳で、隠さない人だった。隠さない人の前で、私はいちばん上手に隠していた。キスの途中で視線を外し、指が深く入った夜も、声の出し方を調整した。イきそうになると、先に笑った。「今日は、ここまで」——その台詞で、自分の熱を冷ます癖がついていた。
止めなければ、溢れる。溢れたら、見られてしまう。見られたら、私はもう、きれいなままではいられない。そう思っていた。二十代の終わりまで、私は自分の水を敵にしていた。
なのに体は、止めるたびに余計に欲しがった。閉じた膝の内側が熱を逃がせず、布のうえでじくじくと広がる。後から一人で触ると、指がすぐに滑る。出したかったのだと思う。出したくて、出せなくて、出すたびに自分が嫌いになるのが怖くて、蓋をしていた。
気づかれて、白状した
その夜も、同じだった。律の指が中を探って、奥の柔らかいところをゆっくり押し上げる。私は喉の奥まで息を呑んで、もうすぐ、というところで膝を閉じた。腰を引いた。いつもの笑いに手が伸びかけた。
律は動かなくなった。指は抜かず、私の閉じた膝に、もう一方の掌を置いただけだった。
「今、止めたな」
否定する言葉が、口の奥で溶けた。律は急がない。急がない人の沈黙は、問いになる。私は天井を見た。照明の輪がにじんで、まばたきのたびに形を変える。
「……出そうになるの。水が。潮、みたいな」声が小さかった。「汚いと思って。粗相だと思って。だから、いつも」
言い終える前に、喉が詰まった。白状は、裸より羞恥だった。律は指をゆっくり抜いた。抜け際に、音がした。私は耳まで熱くなって、また笑おうとした。
「笑うな」律は短く言った。怒ってはいない。隠すな、という声だった。「汚いと、誰が言った」
「誰も。私が」
「お前が決めたルールか」律の親指が、閉じた膝の内側を一度だけ撫でた。「俺は、見たい」
見たい、という言葉が、恥の芯を直撃した。止めろ、ではない。隠してくれ、でもない。見たい。歓迎の形をした許可だった。私の中で、長年の蓋が音を立てた。
タオルを敷かれた
律はベッドから降りて、棚からタオルを二枚出した。畳んで、私の腰の下へ滑り込ませる。布の感触が冷たくて、現実が急に近くなった。空想の羞恥ではなく、これから実際に溢れるための準備だった。
「漏れたら、これでいい」律は淡く言った。事務的なくらい、静かだった。「出してもいい。出してほしい。止めるな」
下腹部が、その言葉だけで締まった。濡れていることは、もう隠しようがなかった。太ももの内側がべっとりして、タオルに染みが移る。律はそれを見て、目を細めた。嫌がりではなかった。欲しがっていた。
「恥ずかしい」私が言った。
「知ってる」律は私の膝を、両手でゆっくり開いた。抵抗する力は、思ったより弱かった。「恥ずかしいまま、見せろ。綺麗に盛らなくていい」
口づけは深くて、急がなかった。舌の熱が落ちついているのに、掌だけが正直だった。腿を撫でる手が、ときどき強くなって、すぐ緩む。律はまだ、平気な顔をしていた。
指が戻ってきた。入口はもうとろけていて、何も言わなくても中へ滑る。奥を押されるたびに、下腹の水が前へ寄る。私は反射で膝を寄せかけた。律は寄せさせない。開いたまま、手首だけを浅く動かした。
「今、溜まってるだろ」耳のうしろで、低い声。「あと少しで出る。わかってる」
わかっていた。わかっているのに、癖が先に走る。腰を引く。律は引かせない。引かせない代わりに、動きを止めた。中に入ったまま、何もしない。熱だけが内側で行き場を失う。
「律……」声が裏返った。「動かして」
「言葉にしろ」律は額を私の額に付けた。「何が欲しい」
羞恥が、欲しがりに負けた。「見て。出るところ、見て。止めないで」
止めない、と決めた
律は指を抜き、腰を乗せてきた。先端が入口を舐めるように当たる。濡れているせいで、入れる前から滑る。私は自分から腰を上げそうになって、寸前で止まった。上げたら、入る。入ったら、もう蓋ができない。
「入れて」私が言った。「中に、挿れて」
律は一度に奥まで挿れた。満ちる感覚が腹の底まで届いて、息が薄くなる。蜜が押し出されて、結合したところから熱いものが垂れる。タオルがそれを吸う音が、近い。
浅く、抜いて、また奥。同じ場所を、正確に擦る。私の中はとろけて、律の形を覚えている。イく手前の熱が、すぐそこまで来た。腰が勝手に律の腰へ吸いつく。止めようとしても、もう閉じられない。
「イきそう」私が言った。お願いだった。
律は、そこで緩めた。奥に置いたまま、動きを落とす。擦る幅が短くなって、熱だけが残る。あと少しで届く場所から、意図的に外された。
「待って——今、出る」私は律の背中を掴んだ。「外さないで。動かして。お願い」
「出るなら、出せ」律の声はまだ低かった。なのに、呼吸だけが乱れていた。「俺は見てる。隠すな」
再び深く挿れられて、私は声を噛んだ。律の指が、結合の上を押し開くように当てられる。中と外を同時に責められて、水が前へ走る。恥ずかしい音が部屋に落ちた。擬音ではなく、事実の音だった。
「こんなに濡れて」律が言った。仮面が、そこで一度だけ揺れた。余裕の人が、欲の人になった。「出して。頼む。俺に、見せろ」
頼む、が Tor だった。私の中で何かが許可された。蓋を外していい、と体が先に理解した。腰が律を求める。求めている自分を、もう笑ってごまかさない。
「イく——出る、出る」私が言った。直接の言葉だけが間に合った。
律は奥を短く突いた。同じ深さで、逃がさない。私は息を吸ったまま止まった。胸が上がったきり、降りない。喉の奥に声の材料だけが溜まって、出口がない。視野が寄って、律の鎖骨だけが近い。下腹の熱が一本に束ねられて、そこを越えた。
溢れた。止める前に、出た。熱い水が律の腹を伝って、タオルへ落ちる。自分の意思ではない。制御を失う、というのはこの瞬間の名前だった。遅れて、声が出た。吸った息のあとに、遅れてもたげた低い声。自分のものとは思えない長さで、部屋の空気を裂いた。
まだ出る。律は抜かずに受けていた。見る、と言った男が、本当に見ていた。私は目を開けたまま、その視線を受け取った。恥で死にそうで、死ななかった。死なないどころか、腰がまだ律を欲しがって、余波でまた小さくイった。
律の額に汗が光っていた。余裕は、もうなかった。「……出たな」声が掠れていた。「綺麗だ。お前が止めてたもの、全部」
替えたシーツのうえで
あとで、二人でシーツを替えた。濡れたタオルを丸めて、新しい布を角から合わせる。律の手際は雑で、私のほうが真っ直ぐだった。その aut がおかしくて、笑った。笑っても、蓋に戻らなかった。
「汚いと思ってた」私が言った。過去形にするのが、自分でも新鮮だった。
「俺は最初から、見たい側だ」律は枕を放り投げて、新しいシーツの上に座った。「止めるお前より、出るお前のほうが正直だ」
私はまだ脚の内側が熱い。出したあとの空洞が、軽かった。泣きそうな軽さ。涙は出なくて、代わりに息だけが長くなった。二十九歳の夜に、数年ぶんの蓋が床に落ちている。
恥が、残らなかった。残るはずのものが、見当たらない。律は私の髪を耳のうしろへ掻き上げて、何も急がなかった。隠さない人の隣で、私は初めて、隠さずに濡れたあとに座っていた。
「また、見たいか」私が聞いた。確認ではなかった。許可の形を、自分の口で言ってみたかった。
律は短く笑った。「見たい。次は、止める前に言え。出したい、と」
私はうなずいた。膝は、もう閉じていなかった。


