もしも許されるのなら…2
静香との官能しか知らない由衣華にとって、男女の交わりで得るそれは、想像していた感覚とは全く違っていた。
呼吸を乱す強烈な異物感、ミシミシと鋭く痛む局部、経血とは違う出血。
(好きなのに…何だろう、何か違う)
灼け付くような、張り裂けそうな痛みを堪えながら、由衣華は心中で呟いた。
消えない劣等感
恋人同士になって3年が経ち、静香と由衣華はそのまま付属の大学に進学した。
2人とも異なる学部や学科で人間関係を形成したりと、何処にでも居る女子大生と同じ、キャンパスライフを過ごしていた。
しかし、すれ違う生活リズムの中でも連絡は取り合い、関係を継続していた。
そんなある日。
「旅行?」
語尾を上げ、尋ねるようにそう発したのは、静香。
「そうそう。もうすぐ休みだから、4人で旅行しようよ」
疑問の表情を浮かべたままの彼女とは反対に、幼子のように無邪気な笑みでそう提案して懇願するのは由衣華だった。
そんな彼女達を、それぞれの隣に座る2人の彼氏が微笑ましく見ていた。
静香と彼氏の淳、由衣華と彼氏の宏樹は、偶然に顔を合わせたり時間があったりしたら、今日のように近くでお茶したり食事したり、時々遠出する程の交友関係を持っていた。
「行き先は決めてるの?」
「うん」
首を縦に振って肯定すると、由衣華はカバンから薄い冊子を取り出し、静香に手渡した。
受け取ったそれは、温泉旅館のパンフレットで、部屋の内装や設備、周辺の観光スポットが軽く記載されていた。
(…行きたいな、温泉)
そう思っていると、由衣華は畳み掛けるように言ってきた。
「宏樹と淳くんにはもうOKの返事もらってるから。後は静香の答えだけ」
(いつの間に…)
由衣華はともかく、どうして淳も何も言わなかったのか、何となく理由が解る静香は、敢えて問い詰めず、一言答えた。
「いいよ、行こうか」
***
中高生より少し遅い夏休みに入った4人は、あっという間に旅行の日を迎えた。
散策、食べ歩き、名産品の物色などなど、4人は全身で観光を楽しんだ。
しかし、彼等の中で、感情の乏しい表情を浮かべる者が1人。
ー静香だ。
そんな彼女の視線の先には、隣を歩く淳ではなく、少し前を歩く由衣華が居た。
(…やっぱり、宏樹くんと居る方が楽しいのかな?)
宏樹と1つのクレープを分け合う、彼女を眺めながら静香は思った。
少食の彼女と今みたいに1つのスイーツを分け合ったりお茶したり買い物したりと、数え切れない程デートを重ねた、手を繋いだ、キスした、セックスもした。
そして、宏樹よりも長く濃い時間を共にしてきた。
しかしそれでも、笑い合う2人を目の当たりにする度、静香は劣等感を抱かずにいられなかった。
安心感、包容力、逞しさ。
宏樹と同じ愛し方をしても、男である彼と比べて、そういう部分で劣ってしまう。
何より、同性である自分では、由衣華を”女”には変えられない。
宏樹は由衣華を何度、どんな抱き方をしてきたのだろうか?
彼女を腕に抱く度、どんな睦言を囁いてきたのだろうか?
会う度会う度、何とも言えない色気を纏うようになった由衣華を見ると、そんな無粋な考えばかりが静香の脳内を占める。
(また考えちゃった…)
襲い来る劣等感や2人の桃色事情を掻き消すように、静香は由衣華と同じクレープに小さく齧り付いた。
「…」
そんな彼女を、淳は複雑な表情で見ていた。
チェックインの時間が近付くと、疲れた体を労ろうと、4人は観光を切り上げて宿泊する旅館に入った。
「ねえ、静香。荷物置いたら、一緒に露天風呂行こ」
「はいはい」
「だったら、オレ達もそっち行こうぜ」
「そうだな、折角だし」
一旦部屋に入って早々に荷を解き、必要最低限の荷物を持つと、露天風呂の脱衣場へ向かった。
「楽しみ、露天風呂」
「そ、そうだね」
不意に向けられた笑顔と言葉に、静香の胸がドキリと高鳴った。
昂る心身
鼓動を乱したまま脱衣場に入り、2人とも身に纏っていた衣類を1枚ずつ備え付けの籠に入れていく。
由衣華と最後にセックスしたのは卒業式を迎える少し前で、大学に上がってからはお互いに彼氏もできて、何かと忙しなかったからデートすらしていなかった。
故に、大学に入って且つ宏樹と付き合ってからの、由衣華の肢体を見るのは初めてだった。
滑らかで狭い女性らしい撫で肩、白いラインが通るスッと伸びた背中。
そして、水蜜桃のように自然な丸みを帯びる、白のTバックから溢れるプルンと艶のある尻肉。
男の熱を受け入れ、その悦びを知った彼女の肌は酷く艶めかしく、唯でさえ乱れる静香の鼓動を更に乱した。
「先に入るね」
平静を乱す彼女を尻目に、由衣華は心許なく肌を隠す上下の布をも取り去ると、軽い足取りで脱衣場を後にし、露天風呂へと消えていった。
そんな由衣華に何も言えないまま、静香も粗野な手つきで衣類を取り去ると、この場を後にした。
「こっちこっち」
中に入り、既に湯船に浸かっている由衣華に手招きされるがまま、静香も隣に体を沈めた。
湯の温かさが静香の体をじんわりと巡る。
「久しぶりだね、2人きりになるの」
何とも言えない心地良さを味わっていると、由衣華の嬉々とした声が彼女の鼓膜を震わせた。
それだけでなく、自然な形で由衣華は静香との距離を詰めた。
身動ぐ度、お互いの肌と肌が触れ合う。
「何か嬉しい」
表情を変えないまま、今度は先程と同じく、独り言のような声で呟いた。
ー色白の肌に、宏樹のように奥の奥まで触れたい、もっと由衣華の心身を独占したい
屈託なく喜ぶ由衣華を前に、静香の脳内は性的な欲にまみれる。
ー何でこんな事しか考えられないのだろうか?
そんな自己嫌悪に苛まれたが、静香に後戻りするという選択肢はなかった。
「…静香?」
「由衣華…」
静香は、心配そうな表情を向ける彼女の局部の、海藻のように水中で揺れる黒い繁みへ、徐に手を伸ばした。
「ちょっと、静香ッ…!」
驚きながらも伸びる手を制止するも時既に遅く、静香の手は、黒に覆われた秘口に触れていた。
そして、体温と厚みを持った柔らかな肉唇に中指を這わせ、捜し当てた窪みに中指の爪先を挿し込んだ。
(膜を突き破って、この中を宏樹の熱が貫いたのか…)
意思に反してそんな想像をしながら、静香は挿し込んだ指をゆっくりと奥へ進めていく。
初めて味わった由衣華の内側。
湯に浸かっているからか、そこは酷く熱を孕んでいて、熱湯にでも手を入れているような錯覚を、静香に起こさせた。
「由衣華の中、熱くて指が溶けちゃいそう」
熱っぽい言葉を囁く静香の指が湿りを帯びた肉壁に擦れると、中が急に狭くなり、不規則なうねりを見せた。
「はあっ…静香っ、」
異物の侵入に、由衣華の下半身が蕩けるような熱を帯び、小さな疼きを見せる。
それは紛れもなく、彼女が女としての欲情を煽られ、自覚させられた何よりの証拠だった。
「ダメっ、だって…他の人も、居るんっ、だからっ、」
「大丈夫だよ、普通にしてれば。誰も私たちなんて見てないから」
自分たちと同じように、露天風呂を楽しむ人に見られたらと、羞恥に怯える由衣華に対し、静香は周囲の様子や反応に目もくれず、2人だけの世界を楽しむ。
「だから、普通にしてて」
そんな言葉とは裏腹に、静香は由衣華の平静や自制心を乱すように、中指に加えて薬指も挿し込んだ。
「はぁっ…ぁっ、」
前置きもなく肉を拡げられたが、由衣華が感じたのは、宏樹に処女を捧げた時に味わった、全身が裂けるような痛みではなかった。
初めて静香と局部を擦り合わせた時の、恍惚とした感覚だった。
過去の悦びが鮮明に蘇るとそれを求めてか、由衣華の蜜肉がキュウっと2本の指に強く絡み付いた。
「ダメだって言った割にはけっこう乗り気じゃない…良かった、」
彼女の淫らな反応に、揶揄ではなく安心したように言うと、静香はもう片方の手を上半身の膨らみへと伸ばした。
掌で肉の柔らかさを味わいつつも、血行が良くなったせいか、血色良く色付いてピンと自己主張する、乳頭部を2つの指でクリクリと捏ね繰る。
高校時代最後のセックス以来触れていなかった由衣華の乳房。
膨らみを形成する肉は、静香の記憶より、量も柔らかさも幾分か増していて、より彼女の掌を楽しませた。
「ぁっ、…はぁんっ、」
女性の象徴とも言える部分を同時に刺激すれば、唇の隙間から漏れる声はより艶めかしさを孕み、触れられた部分から何とも言えないむず痒さが全身を巡り、静止していた細い肢体が不規則な身動ぎを見せる。
ー今は私が由衣華を女にしている、貴方じゃない
容赦なく与えられる悦楽に抗う彼女の姿は、静香にそんな征服欲や独占欲、そして、宏樹への優越感をも与え、情欲を酷く擽った。
壁1枚隔てた、男性用の露天風呂に入っているであろう、視界に存在しない彼に見せ付けるように静香は、ツンと硬さを持つ膨らみの先端を気紛れにキュッと摘まんでみたり、抽挿の速度を変えたり、内壁を掠めて軽く爪先で触れてみたりと、由衣華が一番好きな速度や強さ、角度やタッチを探るように、指の動かし方に様々気紛れな変化を付け、予測不能な刺激を様々生み出した。
「ひぁっ、ぁッ…」
律動から脱した動きは、由衣華に新たな快楽を与えたらしく、唯でさえ熱く濡れていた蜜路が更なる湿りや熱を孕み、3本の指を強く締め付ける。
ーこのまま離れないで
この締め付けも湿りも、女としての欲求を満たす為の動きで、満たしてくれるなら誰でも、何でも構わない。
そう解っていても、自分じゃないとダメだと言われているみたいで、幾分か宏樹への劣等感や嫉妬など不純な感情が薄れていくのを、静香は感じていた。
しかし、由衣華が乱れる様子だけでは曖昧で心許なく、完全に静香の気持ちを満たして落ち着けてはくれなかった。
「由衣華の中、熱いだけじゃなく、濡れててさ…すごくエッチ」
ー由衣華の口から求められたい
「でも、私は今よりもエッチな由衣華が見たい」
耳元で、呼気交じりの声でそう囁かれた彼女は、全身の急激な火照りとドキドキと胸が高鳴っているのを如実に感じていた。
それらは、宏樹と過ごした時間の中では味わえなかった感覚。
そして、静香と過ごした時間の中で頻繁に味わった感覚。
「ねえ、もっとエッチな姿、私に見せてくれない? 由衣華」
久しく味わっていなかった、トキメキに酔わされた中でそう囁かれれば、彼女の答えは1つだった。
「もっとエッチな私を…見て?」
望んでいた言葉を聞けた静香は、狭く締まりの良い入口から指を抜くと、由衣華と湯船から出た。
2人の官能世界
それから露天風呂を後にすると、大胆にも静香は彼女を、淳と夜を過ごす部屋に連れ込んだ。
早く2人だけの官能の世界に浸りたい。
それだけが脳内を占める彼女達は、修羅場を生み出し兼ねない、この危険な選択も厭わなかった。
部屋に入るなり、再び肌を晒し合うと、既に用意された2つの寝床の1つに、静香は由衣華を寝かせて彼女の上に股がった。
「静香」
「どうかした?」
「…今日は、私が上になって、いい?」
(…すごく嬉しい)
嫉妬心、優越感、劣等感。
恥じらいながらも、静香を求める由衣華の姿は、彼女の中に渦巻くそれらの感情を、浄化していく。
「いいよ、もちろん」
体勢を逆転させ、熱を求めて疼く蜜口を突き出し、静香のそこにピタリと宛がうと、下腹部をゆっくりと上下に動かした。
(そう、この感覚…)
肌の温かな感触、柔らかくも少しだけ芯のある薄い下生え、湿りや粘り。
静香との密着で得る感触に、由衣華は思わず心中でそう呟いた。
そんな喜びが性的欲求の起爆剤となったのか、より鮮烈で濃密な興奮を求めて、彼女は動きを加速させた。
「はっ、ああんっ、…いいっ、」
お互いが生み出す、天然ローションの助けか、敏感で薄い皮膚同士の摩擦は、痛みではなく、宏樹との繋がりでは得られなかった官能を生み出した。
「由衣華っ、…私もっ、だよっ…はぁっ」
どこか切なげな笑みを浮かべ、熱っぽい声で言うと、静香も下腹部を突き出し、これ以上ない程に密着すると、彼女と同じように律動的に動き出した。
久しぶりに味わった2人だけの快楽。
数か月しか経ってないが、まるで何年かぶりの行為のように、止めどなく生み出される甘い摩擦熱を無我夢中で味わった。
「あっ、あっ、…あぁっ…!」
「…はぁっ、ぁっ、」
入れなくていい、繋がった証が残らなくてもいい。
ただこうして触れ合って、同じ熱を貪り合ってる事実があればそれでいい。
「はぁぁんっ…静香っ、私、もうすぐっ…」
由衣華の心身を巡る興奮や、言わんとしている事を悟った静香は、先回りして言った。
「うんっ…イって? 私っ、見てるからっ…由衣華が一番、エッチになる瞬間っ、」
唆すように言われると、由衣華は動きを止めないまま、利き手を自身の局部に伸ばした。
そして、静香と触れ合っている少し上の、小さな蜜豆に指先で触れた。
既に包皮を突き破り、頭を出しているそれを、軽く摘まんだりして、物理的な刺激を与える。
心許ない摩擦に、神経を直接触るような鮮烈な刺激が交じれば、官能がより濃蜜さを増した。
「あっ、あぁぁんっ…!」
落雷のように全身を巡るそれに、由衣華は肢体を不規則に仰け反らせたり、抑え切れない艶声を上げたりする。
理性を手放し、淫らな姿になる彼女を前に、静香も興奮を抑えられなかった。
彼女達の最大の昂りは目前だが、先にその場所に辿り着いたのは由衣華だった。
「静香ゴメンっ…先にイクねっ、」
そんな断りを入れた後、由衣華は控えめな嬌声を上げ、四肢を小刻みに痙攣させながら頂点に登り詰めた。
(静香…)
霞む意識の中、心中でそう叫ぶ由衣華の心に、宏樹の存在はなかった。
(由衣華…)
最高潮の悦びを味わい、最高に淫靡な姿の彼女を前にする、静香の心に淳の存在はなかった。
((結局、私は貴女じゃないとダメなんだ))
そんな事実を、2人は再度認識した。
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