ジェラシーで昂った肉慾

ジェラシーで昂った肉慾

気楽な関係

きっかけは小説仲間の明菜のこんな疑問だった。

「セックスって、気持ち悦いの?」

その時、乙女系の官能小説にハマっていた明菜。

その内容や描写に衝撃を受け、そう聞いてきたのは容易に見当がついた。

妄想だから脚色だらけに決まってるだろ。

くだらないと思いながら、セックス中の明菜の姿を想像してしまった。

肌の感触、繋がった時の感覚、性の悦びを知った時の声や表情。

それらへの好奇心が、くだらないと蹴飛ばす言葉ではなく、こんな言葉を言わせた。

「そんな気になるならやってみるか? セックス」

彼女は一瞬だけ目を丸くしたが、少しの沈黙の後に答えた。

「…やってみようかな」

予想外にも、明菜は下卑た冗談に乗ってきた。

その返事を受け取ったと同時に、オレは厚みのある唇へ噛み付く様なキスをした。

その日を境に明菜との関係に、セックス仲間というのが加わった。

趣味と快楽のみを共有するお気楽な関係。

だが、そんな関係がグラつく日は突然訪れた。

***

ある日、学内のラウンジで、明菜が知らない男と話しているのを見かけた。

いつも通りに快楽を貪った後、その事を尋ねると、こう返された。

「付き合ってみても良いかなって思ってる。一緒に話してて楽しいし」

初めて見る、男に心をトキめかせている無邪気な笑顔。

明菜が、急に遠くに感じた。

不意にできた距離を埋めたくて、入り交じる負の感情をぶつけるように、部屋を出ようとする明菜の腕を掴んで引き留めた。

「紘、っん」

彼女の後頭部を手で抑え、オレの名を発しようとした唇を自分のそれで塞ぐ。

重ねる角度を何度も変え、明菜の唇の弾力や柔らかさを味わった。

「はっ…はぁっ…っ」

艶かしい声の混じった彼女の乱れた呼吸音が、オレの鼓膜を震わせる。

無味無臭の明菜の吐息。

しかし、唯一感じられる熱と湿りが口内の粘膜に触れると、鎮めた欲を再燃させた。

初めて触れた時と全く同じ、厚みと熱を持った柔らかな唇と熱く湿った吐息。

オレしか知らなかったそれらを、次は見知らぬ男が彼氏という正当な存在となって味わう。

想像すると、この上なく気分が悪かった。

八つ当たりの行為

昂ぶる感情と物足りなさを同時にぶつけるように、明菜の口内へ舌を伸ばした。

緩んだ唇は無防備で、オレの舌を快く迎え入れてくれた。

舌の先端部や窪みを撫でるように、少し尖らせた舌先でそっと触れたり、チュクっと音を立てて時折強く吸ったりする。

「んっ…ふっ、」

明菜の乱れた呼気とリップ音に2人分の口腔液が混ざり合う音が加われば、セックス終わりの気怠さが一転、心身がエロ一色に逆戻り。

息が続く限り、乾燥を知らない彼女の口内を存分に堪能してから唇を解放し、頭からも手を離した。

支えを失った明菜は、そのまま膝小僧を床に預けてへたり込んだ。

「キスだけで悦がって、腰抜かしやがって…」

妄想話にありそうな言葉で明菜の羞恥を煽りながら、華奢な肢体を少し荒く硬い床へ俯せに転がし、体勢を整えられる前にその上に跨り、下着ごと黒いジーンズをずり下ろした。

「エロ女」

上半身の着衣はそのままに、下半身は足首までの靴下しか履いてないという、全裸以上に霰もない姿の明菜の脚を片方だけ肩に担いだ。

そして、風通しの良くなった核心部に、下から中指を奥まで侵入させた。

「っ、はあっ、」

行為の余韻なのか、触れたそこは柔軟さや温い滑らかさを残していて、オレの指を拒まなかった。

それどころかまだ足りないのか、熱い蜜を滴らせる入り口は小さな隙間を残したまま、小刻みな収縮を見せる。

「こんな反応して悦がってないって?」

中指に加えて薬指も埋め込むと、待ち望んでいたとでも言うように、収縮していただけの濡れ肉が今度はぴったりと隙間なく絡み付いてきた。

物欲しそうに吸い付く肉壁と茹だるような湿りは、挿入の感覚を連想させる。

中に入りたい、熱や湿りや絡みを味わいたい、そして…

明菜を滅茶苦茶に犯してやりたい

欲望が欲望を呼んですぐに収まりが着かなくなったオレは、埋め込んでいただけの指をずるりと抜き出し、片手でジーンズを寛げて下着から欲塊を取り出した。

衣類から顔を出したそれは、既にしっかりと芯と温度を持っていて、落ち着きのない自分の気持ちを代弁しているみたいだった。

こんなに欲求不満だったなんて、性欲が強かったなんて思わなかった。

自分でも驚く位にオレの精神が、肉体が明菜の体温を欲して止まなかった。

指の跡が残る位に脚を強く固定し、下腹部を近付け局部へ先端部を宛がった。お互いの体勢と挿入の位置を整え、そのまま勢いよく腰を進めた。

「あぁぁッ…!」

余韻に浸っていたとは言え、指2本以上の質量の異物を受け入れるには準備不足だったようで、彼女の悲鳴が部屋中に響いた。

「いっ…ぁっ、紘幸っ、」

全身を強張らせ、息絶え絶えにオレの名を口にしながら、明菜は顔だけをこっちに向けてきた。

細められた瞳は涙で濡れていて、眉間には深く皺が刻み込まれていて、彼女の痛みや苦しさが明白に見て取れた。

他の男と付き合いたいとか言うからだ

もっと痛い思いすれば良いんだ

苦痛に襲われる明菜を見ても、可哀想だとか悪いだなんて感情はこれっぽちも湧かなかった。

湿り、茹だるような熱さ、不規則なうねりや締め付けなどの細かな動き。

限界まで膨張し、明菜の陰道に密着した自身が、それらを敏感に感じ取る。

明菜の体は、オレの形を覚えていて、強引に侵入しても馴染む。

無意識で当然の動きでも、オレにとってはこの上ない愉悦であり幸福だった。

「はぁっ…あぁっ、」

身動いだ時に最奥の悦い場所に尖端が当たったのか、不意に明菜の唇から喘ぎが漏れた。

オレの鼓膜を振動させるそれは、酷く艶めかしくて、苦痛は感じられなかった。

「さっきまで、嫌がって痛がってたクセに、随分気持ち悦さそうじゃねえか。それでも、」

“オレから離れるって言うのかよ?”

そう言おうとしたところで、思わず発しそうになった言葉をグッと噤んだ。

見過ごせない気持ち

明菜が離れると思うと、どうしてこんなに寂しいんだ?

どうしてこんなに腹立たしいんだ?

突如顔を出した疑問。

しかし、それの答えに行き着くまで意外と時間はかからなかった。

…嘘だろ。

鈍器で頭を強くぶん殴られた気分だった。

見た目とか性格とかが、オレの好みと合致したからじゃない。

趣味の話ができて、簡単にヤらせてくれたのがただ明菜だった話。

だから、明菜がオレの知らない所で誰と何をしてようが興味はなかった。

興味はないって? …この大嘘つき。

「あっ、はぁっ…」

明菜へ抱く気持ちを知った自分を受け入れられず、苛立ちに任せてギリッと奥歯を噛み締めていると、顔だけこっちを向いた彼女と視線がかち合った。

その瞳に見詰められた瞬間、局部の肉塊がドクリと大きく脈打った。

明菜とセックスする度、向けられる熱っぽい視線にはいつも興奮させられる。

それだけじゃない。

声も表情も肌触りも、繋がった時にオレの形に馴染む感覚も、明菜の全てがオレを欲情させた。

彼女の仕草や反応が退屈だとか、可愛くないだとか一度だって思った事はない。

今日までの時間を思い返せば返す程、相手が明菜以外に考えられない事を自覚させられた。

何で、どうしてオレだけがこんなに焦がれてるんだ?

今になって気付かされた感情に、心中でぐるぐると自問自答した。

しかし、どれだけ考えても明菜との関係も状況も変わらない。

それだったら…

「あぁッ…!」

何の宣言もせず、オレは下腹部を動かした。

「うっ、あっ…あッ!」

苦痛に満ちた声の制止に構う事なく、鎮まる事を知らないいきり立ちで明菜の中をガツガツと突き上げ、濡れた肉壁を抉るように鈴口を擦り付ける。

どの場所をどんなリズムで、どの程度の強さで刺激すれば良いのか。

明菜が深い悦楽に溺れてエロくなる姿を見たくて、いつもはそれらを考えながら動いていたが、今はそんな余裕も理由もなかった。

鈴口から陰茎の根元まで、明菜の中に埋まっている全ての部分が濡れた膣壁と擦れれば、摩擦熱を生み出す。

陰部の絡みで生じた熱は脳にまで及び、風邪でも引いたみたいに頭をぼんやりとさせ、唯でさえ希薄になっていた理性や常識を蕩けさせた。

何も考えなくても良いという解放感もあるせいか、欲望を満たす為だけの動きは、酷く気持ち悦かった。

「ひぃっ、あっ、あッ…あぁっ!」

しかし、ギシギシと軋むベッドの音、そして何よりも痛みに満ちた明菜の不規則な短い悲鳴が、精神的な快楽を急激に冷ましていった。

肉体は死ぬ程興奮しているのに、精神は急激に冷めていく。

心身の矛盾を感じながらも、濡れた肉と擦れる感触や締め付けられる感触に酔っている時だった。

「あぁっ!」

「ッ…!」

明菜の甲高い悲鳴と共に、今日一番の強い絡み付きがオレを襲った。

ここまで散々欲情を煽られたオレにとって、その密着感は強烈で、ギリギリで繋がっていた理性がとうとう音を立てて切れた。

完全に欲求の制御を失ったオレは、ありったけの力を下半身に込めて、欲望の果てを目指してひたすらに彼女の最奥を刺激した。

「いあぁっ、やっ、やだっ、」

「はっ、こんな、ギュウギュウにオレの締め付けて、説得力ゼロ、だなっ」

「やっ、やめてっ…紘幸っ…!」

「そんなにっ、止めて欲しいなら、嫌なら、」

(もう限界だ、)

強烈な収縮を見せていた陰肉が緩んだ瞬間、我慢の限界を超えた自身を抜き出し、明菜の臀部に当てた。

行き場のない白濁が、程好く肉が付いて色白の尻にたらりと滴る。

その様はアダルトビデオのように卑猥な光景だが、それを見ている時のように何の興奮もしなかった。

溜まった欲を吐き出した瞬間、昂りが一気に冷めて喪失感がオレを満たす。

そんな気持ちのまま冷静さを取り戻した頭で、オレは明菜の耳元に唇を寄せた。

快楽と趣味を共有するお気楽な関係。

しかし、それ以外の感情は邪魔でしかない。

好きだ

独り占めしたい

相手にもっと近付きたいと思った瞬間が、この関係の終わり。

明菜はどう思っているか解らないが、オレはそう思っている。

「潔く消えてやるよ」

これ以上ない、熱っぽい声で囁いた。

どうせ終わるなら、オレが先に終わらせて、全部忘れてやる。