再会と告白
ずっと好きだった
嫌なら逃げてくれて構わない
その一言一句は、酷く甘さや真剣さに満ちていた。
***
兼業主婦業の息抜きにと、高校時代の同窓会に足を運んだ相田紫。
ビュッフェスタイルの豪華で上品な料理やデザート、仲が良かった同級生との思い出話で心身をリフレッシュした彼女は、レストルームから会場を後にする予定だったが、ある人物により、それは崩された。
その人物とは、出会った時から紫がずっと恋焦がれている幸田鴇矢だった。
ホテルのレストルームで清潔感があるとは言え、お手洗いという粗末な場所での、自身の体重と手と壁で華奢な体を拘束し、厚みのある唇に自らの薄いそれを押し付けるという乱暴な行動。
しかし、それが恋情を抱いている相手の言動と解ると、ショックとは違う感情が紫の中で沸き上がる。
「…そんな事言われて、逃げられる訳ないでしょ」
次は紫から口付けを送った。
***
高揚する感情をぶつけ合うように、どちらからともなく唇を重ね合わせ、角度を変えて何度も重ねてはお互いの唇を甘く食み合う。
「んッ、ふっ…はぁっ、」
下腹部の奥が不規則にキュッと締まる感覚、Tショーツの生地がジワリと熱く湿っていく感覚。
(いつぶりだろう、こんな感覚)
久しぶりの悦びを味わっていると、開いたままの彼女の唇に湿った何かが侵入した。
それが鴇矢の舌だと、紫が認識するのにあまり時間は要しなかった。
(幸田くんと、ディープキスしてる…)
幾度となく夢にまで見た瞬間が実現し、彼女の全身が歓喜に奮えた。
入ってきた舌を迎え入れると、紫は自身のそれを無心に絡めた。
表面のザラつき、ねっとりとした潤い、厚み。
舌先を這わす度に感じるそれらの感触は、欲望の果てを晦まし、彼女から分別をも奪っていった。
是非の判断を放棄した紫は、舌を絡め合わすだけじゃ満足できなくなり、大胆な行動に出た。
舌と唇は離さないまま、彼の体に回していた手の片方を自身の背中に回し、後ろ手でファスナーを全開にすると、邪魔だとでも言うようにノースリーブから腕を抜き、ネイビーのドレープワンピースを腰の辺りまでずり下ろした。
そして、鴇矢の手首を取り、ワンピースと同色のブラジャー越しに、膨らみを握らせた。
それと同時に、紫は咥内を開放し、芳香剤の上品な香りに彩られた空気を取り入れ、呼吸を整えながら言った。
「私のこと、メチャクチャにして?」
2人分の唾液で淫らに汚れた唇で紡がれた言葉、恍惚さが窺える視線、酷く熱と湿度を含む乱れた呼吸音。
女としての欲望を孕んだ紫を目の当たりにした鴇矢は、静かに道理から逸脱した。
常識を超えた欲情
男性の指には妙に目立つ、シンプルなシルバーリングを外し、ジャケットのポケットに放り込む。
「愛原、いや、紫もそれをしまえ」
彼女の旧姓を直ぐに訂正して下の名前を言うと、視線で薬指を拘束するのリングを示した。
言葉通り、紫は躊躇なく結婚指輪を外すと、彼のジャケットにしまい込む。
拘束具が無くなり、視覚的にも感覚的にも阻みが無くなったところで、鴇矢も男しての欲望を露にした。
誘われた指先にギュッと力を入れて球体を歪めたり、形を保ったまま円を描くように動かしたりして、彼女の膨らみを弄ぶ。
時折、中央の肉豆を指先で潰したり捏ね回したり構うのも忘れない。
マシュマロのような感触の膨らみ、緩い芯が入り硬さを持った肉の突起。
紫の乳房は若さに満ち溢れた20代を過ぎても、変わらず存分にそれらを持ち合わせていた。
しかし、鴇矢を興奮させたのはそれだけではなかった。
「ふっ、…ぁっ、」
漏れる声を必死に抑え、今の行為を懸命に秘めた物にする彼女の姿は、彼の背徳感や支配欲を煽った。
触れられた部分から全身へ、痺れにも似た熱がじわじわ巡るのを、紫は感じ、それはやがて奥の秘められた部分にまで及んだ。
「…ぁぁっ!」
秘口を覆う幾重もの肉襞は既に肢体以上の温度を蓄え、布地が食い込んだだけで、どうしようもない疼きを与え、彼女の欲を加速させた。
ここがホテルのトイレで、すぐ傍のメイン会場ではまだ皆が集っていて、話に花を咲かせているのを紫は一瞬忘れ、盛大に鼻にかかった甘い喘ぎを漏らした。
「そんな声出したら、聞こえるかも知れないよ?」
言葉の割にあまり危機を感じていない声で彼女を茶化すと、鴇矢はブラジャーのカップを横に捲り、膨らみの中心部を眼前に晒した。
「でも、紫はそっちの方が興奮するみたいだ…ここだって、こんなにして」
妖しい笑みを浮かべたまま彼は、しっかりと芯を持って存在を示す乳頭に顔を寄せ、仄かに赤みの差すそれに舌を伸ばした。
そして、嬲る様を紫に見せ付けるように、突起の付け根や乳輪部に舌先を這わせたり、唇で軽く食んだりする。
程好く乾燥と力を持った指先や爪の鮮烈な愛撫と違い、湿りや滑りを持った舌先の愛撫は朧気で心元なくて、紫を酷く焦らした。
そんなじれったさと戦う間も、彼の舌や唇は執拗に薄く滑らかな素肌を滑る。
飽きる事無く往来を繰り返し、膨らみの恥部やその周辺が鴇矢の体液でベトベトになった頃、紫のもどかしさは頂点に達した。
(もう、ダメっ…)
「…幸田、くん」
「…どうした?」
熱く湿った吐息に混じりの声で名前を呼ばれた彼は、彼女の肌から舌と唇を離して動きを止めた。
「…貴方を、もっと奥で感じたい。もう、我慢できない」
切羽詰まった口調で言うと、紫はワンピースの裾を下腹部まで捲り上げ、下半身を自ら露わにした。
今にも肉がはみ出しそうな程の、ブラジャーと同色の細いショーツの中心部には、吸水痕ができていて、彼女の限界が近い事を示していた。
しかし、それは鴇矢も同じで、局部の窮屈さを見て見ぬフリはもうできなかった。
「…オレも、もっと奥で紫を感じたい」
(…幸田くんも、私と同じ)
オウム返しでも、恋焦がれる鴇矢の熱っぽい声調で発せられれば、それは紫の煽情を刺激する要素でしかなかった。
「後ろ、向いてくれ」
彼女は彼に背中を向けると、扉に手を着いて臀部を突き出す体勢になる。
Tショーツの着用で剥き出しになった尻は、球体を維持していて、羞恥などの興奮のせいか、仄かな赤みも持っており、正に桃尻という例えがぴったりだった。
陰処を隠す最後の砦である、藍色の細い布切れをずり下げると、鴇矢はスラックスのファスナーを寛げ、男性器という名の欲を尻肌に押し付け、そのまま下腹部を動かした。
外気で冷えた肌と高温の肉杭の急激な温度差、熱く滑る硬い鈴口が素肌や
溝をゆっくり伝う感触、そして、鴇矢の存在を濃密に味わえるという期待に、彼女の肢体を甘い熱が巡る。
ビリビリと巡り続ける、数年ぶりに味わうそれを、堪能している時だった。
「…ああんっ!」
肌を這っていた肉の先端がぐちゅっと沈み込んだ瞬間、鮮烈な痺れが紫の全身を駆け巡った。
さっきまでとは比べ物にならないそれに、彼女の足腰から力が抜けるが、咄嗟に鴇矢が細い腰を腕で抱え、体勢を維持した。
ドアと、自身の半身で紫の体を挟んで支えると、彼は柔らかな尻肉掴んで左右に広げ、下腹部を押し付けた。
沈んだ先は既に湿地と化し、柔軟な内壁が不規則に絡み付く、何とも淫靡な様子で、先に進むほどそれらは鮮烈になっていく。
しかし、絡む濡れた肉を自身のそれで抉って掻き分けるのは、鴇矢にとってはこの上ない快楽だった。
「ちょっと入っただけでそんな腰抜かして…淫らだな、紫は」
紫の耳元で呼気を交えながら囁くと、飾り気のない耳朶を唇で軽く食む。
「んんっ…」
反射的に手で口元を押さえ、掌で声を受け止めた。すると、声で表現しきれなかった欲情が紫の秘処にそのまま伝わり、既に最奥へ侵入した鴇矢の肉塊を締め上げた。
その力はキツく、僅かに残っていた余裕を、彼からごっそり奪い取った。
「淫らな紫をもっとイジめてやりたいとこだけど…ゴメン」
語尾を言い終えたとほぼ同時に、状況を把握してない彼女を置いてけぼりに、鴇矢は、子宮口を掠めていた肉尖をギリギリまで抜き出し、再び根元まで侵入した。
至福の時間の終わり
「んんっ!」
捻じ込むような挿入に、拡がり切ってなかった秘口を無理に抉じ開けられ、灼け付くような痛みが彼女の下腹部を襲った。
しかし、柔軟になった肉壁と濃厚な潤い、仕草から痛みを察した彼の待機によって、緩やかに消滅し、その状況に呼応して、紫の拳も徐々に崩れていく。
小さな拳が完全に崩れたのを目にした鴇矢は、奥で小さく律動的な動きを始めた。
「んっ、んっ、んっ、…んんっ、」
公衆の場にも関わらず、彼の動きに合わせて、紫は堪え切れない喘ぎを漏らして、突き上げられる気持ち悦さを味わう。
(すごく幸せだわ)
紫にとって結婚後年単位ぶりのセックスで、しかも相手は未だに脳内で強い存在感を放つ想い人。
女の悦び、心の喜びを同時に手にしている彼女は、天にも昇る気持ちだった。
(こんな、濃密で至福な時間が終わらなければ…)
叶うはずないと解っていても、紫は望まずにはいられなかった。
(永久でなくても、1秒でも長く幸田くんと1つでいたい)
しかし、そんな望みも彼女には許されなかった。
「んんっ!んんっ!」
子宮付近の不鮮明で穏やかだった鴇矢の律動が、結合部付近での激しさと勢いを持った鮮明な動きに変わり、お互いの陰肉に高温の摩擦熱を生み出した。
変化はそれだけではなかった。
限界まで膨張していた鴇矢の陰茎が、それを超えて更に膨れ上がり、紫の下腹部に圧迫感を与えた。
「…紫っ…顔、見せて」
鋭く短い呼吸音交じりの切羽詰まった声で言われた言葉を、もちろん彼女が無視する事はなかった。
だが、その先の彼の行為までは予想していなかった。
鴇矢は紫の口元から多少強引に掌を剥ぎ取り、代わりに自らの唇で漏れ出る喘ぎや呼吸を奪った。
そうやって彼女の咥内の空気の出入りをシャットアウトすると、律動にラストスパートをかけた。
「んっ!んっ!ふっ、はぁっ…!」
2人分の体重を受け止めてガタガタと鈍い衝撃音を鳴らすドア、鴇矢の動くリズムに合わせてお互いの結合部から漏れる卑猥な水音。
防ぎ切れないそれらの音を響かせながら、漏れそうな声や言葉を押し殺してする情事は酷く背徳的だが、今の2人には危機感も罪悪感もなかった。
お互いの肌や肉の感触を味わいたい、1秒でも長く繋がっていたい、それだけしか頭になかった。
しかし、至福の時間の終わりは突如訪れた。
紫と深く繋がり合う事ができて心身で満悦を味わった鴇矢は、どうしようもない吐精衝動に駆られ、埋めていた肉塊をずるっと一気に抜き出した。
そして、唇を解放しないまま、掌で亀頭部を覆うと、我慢していた欲を吐き出した。
手中に収まり切らなかったそれは、節張った指を伝って床に小さな水溜まりを作る。
彼がオーガズムに到達した事で場が一気に鎮まり返ると同時に、紫の頭も急冷し、理性も目を覚ました。
(家に帰ったら、いつも通り主婦と妻の役目を担わないと)
息抜きは終わりだ、現実に戻れ、今ならまだ間に合う。
理性が静かにそう告げるのに、紫の手は、2つの指輪が収まっているポケットへ伸びなかった。
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