擦れ違いセックス

バスルームでオナニーをしていた女性がドアを開けて驚いている様子

空想の自慰行為

2人だけの店内、微酔いのせいで乱れ始めていた自制心。

好条件が揃った中、冗談混じりに放った言葉の後の沈黙に耐え切れず、溢してしまった本音を取り消そうとした時だった。

「だったらしてみようか、セックス」

自分で持ちかけたにも関わらず、音羽は戸惑いを隠せなかった。

頭の天辺から足の指の間まで念入りに体を清めた、髪も乾かした。

(…これからセックスするんだ、凌さんと)

全ての身支度が終えた頃、酔いが冷めたのもあり、音羽の戸惑いや緊張は幾分か鎮まっていた。

(…私から誘ったんだから、私が全部やらないと)

心中で言い聞かせると、彼女は臀部を突き出して、洗面台に片手を着いてタオルの裾から手を入れ、寄り道する事なく、下腹部の茂みに触れる。

(最近、切っておいて良かった)

そう胸を撫で下ろしながら、音羽はシャワーの熱が残る奥の、秘められた入り口へ指先を伸ばした。

「ぃっ…!」

シャワーの余熱と昂る気分に誘われて熱と湿りを持っていたが、指を受け入れるにはどちらも足りなくて、彼女の下腹部に異物感が走った。

(こんなに狭くて大丈夫だろうか?)

そんな一抹の不安は束の間で、音羽が2本の指の爪先を小刻みにピストンすると、何物の侵入を拒否するように強張っていた肉裂が余熱以上の温度を持ち始め、徐々に拡がりを見せる。

熱く蕩けていく筋肉に同調して、中もより潤いを帯び、肉壁に擦れる指先を汚す。

肉孔から繋がる隘路は物欲しそうにうねり、音羽の指の付け根までぴったり密着していた。

「はぁっ、…っぁ、」

その頃には、下腹部の異物感は熱い疼きに、引きつる声は色濃い艶混じりの吐息に変化していた。

目の前の三面鏡には、目尻と頬の筋肉が弛緩した、だらしなく惚けた表情が映っていた。

(…みっともない)

自身の表情を心中で嘲るが、欲情が冷めなかった。下腹部の疼きに今の体勢と、通路1つと扉を1枚隔てた先に待つ凌の存在。

まるで、彼に後ろからガツガツと突き上げられている錯覚を音羽にさせる。

「っぁ、っぁぁ…!」

下唇を噛み締めても抑え切れない吐息混じりの艶声が、塞ぎ切れない唇の隙間から漏れ出る。

(ダメ、もうダメ…!)

昂る気持ちが湯冷めしかけた体温を上昇させ、鮮明さと強烈さを増した疼きが彼女を恍惚とした世界へ引き摺り込もうとした時だった。

「音羽ちゃん?」

扉の外から不意に聞こえてきた、凌の心配そうな声が彼女を現実世界に連れ戻した。

「ゴ、ゴメン。すぐ行く…!」

音羽は我に返って、指を抜いて急いで身形を整えると、扉を開けた。

与えられた欲情

しかし、開けた先には、バスローブを纏って疑問の表情を浮かべる彼が立っていて、彼女は驚きで目を見開いた。

「何も無くて良かった」

視線を泳がせる音羽を安心させるように、凌は疑問の表情を崩して笑みを浮かべた。

「ゴメンね、待たせて。行こう」

彼女の中で未だ漂う、何処かちぐはぐな空気を掻き消すように、音羽は彼の手を取るとベッドへ連れて行って、そこに座らせた。

バーカウンター越しより間近に感じる凌の存在に喉をごくりと鳴らすと、彼女はベッドに座る彼の上に股がって、バスローブの分け目を乱して肌を露出させた。

リップ音を鳴らしながら色白の首筋に吸い付き、ゆっくりとした動きで肩、鎖骨へと唇をゆっくり下ろしていく。

爽やかながらも甘さを帯びた香り、程好い体温に肌の触感。

彼の全てが、五感から音羽の扇情を刺激する。

唇を胸元まで下ろすと、乳輪と同じ色の乳頭が彼女の視界に入った。

膨らみもなく、女性より小さなそれは、世間一般では倒錯感や淫靡さに欠けるかも知れない。

しかし、色白の肌の上で浮き上がるそれは、音羽を貪欲にさせるには充分だった。

甘い蜜に誘き寄せられた昆虫のように、音羽は躊躇いなく小さな尖端に唇を着けた。

舌の中央部や先端部を這わして、突出しているそれを軽く押し潰したり、舌先だけを這わせて弾いたりして、丹念に弄べばより強固な芯が入る。

女性と同じで、男性の乳頭にも神経が密集しているから、誰が触っても勃ち上がるのは当然の話。

しかし、そう理解していても、凌の反応に彼女の心身は昂るばかりだった。

(早く、凌さんに近付きたい)

逸る気持ちが抑えられない音羽は、乳頭から唇を離すと彼の上から下りた。

そして、凌の足元に跪くと、バスローブの裾を捲って下半身を露出させた。その中心部にある凌の肉塊は、精気を持ち始めていて、緩く勃ち上がっていた。

(これが、もうすぐ私の中に入る)

彼の屹立が挿入され、満たされた感覚を想像すると、彼女の蜜壁が熱を持って一層湿りを帯びる。

局部がじんわり焼けるような熱さを感じながら、音羽は凌の肉塊をパクリと口一杯に含んだ。

感じさせる悦び

陰茎の太い部分まで咥えたまま、収まり切らない部分は筒を作った掌で握って倒れないように支え、弱い握力で緩く上下に擦ってみる。

舌と手を同時に動かす事ができず、行き場を失った彼女の口腔液が唇からゆっくりと滴り、僅かな隙間に入り込んでは凌の皮膚と音羽の指を汚した。

日頃から綺麗に洗ってない男は、股間に顔を埋めた瞬間に異臭とも言える刺激臭が鼻をつく為、音羽はいつも息苦しさと戦いながらフェラチオをしていた。

しかし、手入れが行き届いているのか色眼鏡なのか、彼のそこは無臭で、呼吸を止める必要はなかった。

だからか、凌に気持ち悦くさせたい一心で、彼女は夢中になって手を動かした。

音羽の唾液がローションの役割を果たし、滑りを良くして、凌に新たな官能を与える。

「はぁっ、」

支えが不要な位に彼の欲が音羽の掌で膨らむと、頭上に濃く色めいた不規則な吐息が吹きかけられた。

それを感じ取ると、彼女は手と口はそのままに目線だけ上げた。

その先には、音羽がよく見知った“今井凌”の顔があったが、色白の頬は微酔い状態のように淡い桜色に染まり、目尻や眉尻が時折ピクリと動いていた。

(感じてくれてるんだ)

表情を取り繕う彼の様子に、音羽は気持ちが満たされていくのを感じていた。

目線を戻すと、彼女は動かしていた手を止めて離すと同時に、咥内から凌の屹立を解放した。

しっかりと精を蓄えたそれは、硬い芯を含んでいて、取り出された弾みでぶらんと自然と天井を向く。

卑猥とも思える光景を目にすると空かさず、音羽はピクピク震える亀頭冠を指先で固定し、青筋を浮かべる陰茎を根元に真っ赤な舌を突き出した。

着けた舌先を這わせて、そのままゆっくりと、見せ付けるように舐め上げる。

舌を陰茎部で何度も往復させるだけかと思いきや、ねっとり舐めたりチュッと吸ったりと、亀頭部にも構う。

尿道から滴る、尿とも精液とも違う迸りを舐め取るのも忘れない。

うっとりした表情で、まるでアイスキャンディーを扱うような彼女の仕草に、吐精感が沸々と沸き上がった凌は、眉間の皺を深くした。

「出して、全部飲むから、凌さんの精液」

(こんな言葉を口にするなんて相当キてるな、私)

自嘲しながらも、苦悩と悦楽を同居させて複雑に表情を歪める彼を前に、音羽は羞恥や自尊心を捨てる事も厭わなかった。

再び凌の怒張を咥内に収めて頬張ると仕上げとばかりに、締め付けるように至る部分に強く、執拗に吸い付いた。

長い間、仕事にかまけて放置していた性欲。そして何より、酔っ払った姿すら見せない、理性を捨てた音羽の言葉や恍惚とした表情。

「…っ!」

それら全ての要素が絶妙に手伝い合った結果、凌は高みへと上り詰め、あっさり彼女の咥内へ欲情の丈を吐き出した。一瞬だけ音羽の呼吸が止まる。

温かさを孕んだ精は生クリームのように濃厚で、音羽の舌や歯茎に絡み付いてきた。

しかし、生臭いだけで甘くも何ともないそれを、彼女は吐き出そうとは思わなかった。

“吐き出して“

頭上でそう言いた気な凌を尻目に、音羽は喉をコクリコクリと動かして咥内を空にした。

「ずっとしてなかった?エッチ」

「…そうだね。そんな相手も居ないし。自慰だって、頻繁にしなくても困らないし」

凌が、知らない女性とセックスする姿や性欲旺盛な童貞みたいにシコシコ勤しむ姿を想像したくない、彼女としては安心する答えだった。

だが、その裏側で、今さら色事に興味はないと言われている気がして、音羽はした。

絶頂を味わったにも関わらず、彼の肉塊に既に芯が入っているのが、そんな彼女にとって唯一の救いだった。

「…そうなんだ」

沸き始めた切なさや痴がましさを誤魔化すように、彼女は笑みを立ち上がり、巻いていたバスタオルを外して足元にバサリと落とした。

一糸纏わぬ姿で精一杯の虚勢を張り、再び凌の上に跨がると、音羽は眼下の鈴口に、自らで反応させた肉口に宛がった。

そして、天井のライトを見詰めたまま、下腹部を前に突き出した。

「あぁぁんっ…!」

亀頭部が潤う肉路に入り込み、念願叶って凌と繋がった瞬間、神経が麻痺したように、肉を無理に掻き分けられ引き裂くような痛みすらも快楽に変わり、音羽の唇から歓喜の喘ぎが溢れた。

彼女の心身が、雷でも落ちたようにビリビリと悦びに甘く痺れる。

初めて受け入れる大きさや形を記憶して、馴染もうとしているのか、彼女の内側が不規則にうねり、凌の肉茎を強く締め付ける。

「…音羽、ちゃんっ…大丈夫、なのか?」

「大丈夫、…ちゃんと避妊薬、飲んでるから」

「そうじゃない…苦しい? 痛い?」

そう問いかける凌の声は真剣味を帯びていて、音羽は天井から視線を下ろした。すると、心配そうな表情を浮かべる彼の顔が彼女の瞳に映った。

(こんな馬鹿げた事をさせてるのに、何で凌さんがそんな顔するの?)

心臓が潰されるような胸の苦しさ、目頭の熱さが音羽の虚勢に皹を入れていく。

(退屈そうな顔してくれたら、不満な顔してくれたらいいのに)

しかし、凌は彼女のそんな期待をあっさり裏切った。

「頑張ってくれてありがとう」

音羽がよく知る笑みで彼はそう言うと、自身の体に預けられている華奢な肢体を抱き、そのままベッドに下ろした。

「後は僕が変わるよ」

今度は凌が音羽の上に乗って、バスローブの腰紐を解いて惜しげもなく引き締まった裸体を晒すと、彼女の中にまたゆっくりと入り込んだ。

セックスを終えて凌が目を覚ますと、隣にはもう音羽の姿はなかった。

(そうか、)

寝惚けた頭を働かせて彼女との出来事を思い出すと、凌は体を起こした。すると、ベッドヘッドに1枚のメモ用紙が置かれているのが目に入った。

”馬鹿げた事に付き合わせてゴメンなさい”

凌はメモ用紙を手に取ると、音羽が書いたであろう文字をぼんやり眺めた。

ー音羽ちゃんが相手だから付き合ったんだ

その言葉を伝えなかった事を後悔したまま、凌は身形を整えて部屋を後にした。

 
この日を最後に、音羽は凌の前に姿を現さなかった。

 


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