奪われた遊女の心

オナニーしている女性

奪われた猶予

燻る劣情

新造出しの頃から十六夜を恋い慕ってきた勝吾。彼女が同じ妓楼の若い衆の悠生と仲睦まじくしている様子を目撃した時、彼の中に込み上げたのは不粋な感情。

脚を広げて下半身を預ける勝吾と、彼の股間に顔を埋める十六夜の肢体。水揚げの祝いに新調した紅と桃色の布団が、彼らの重さを受け止めていた。

柔らかかった肉塊が、十六夜の頬裏と舌の温度や潤滑さを、薄い皮膚越しに先端が感じ取って、芯を持って硬さを持ち始める。

「はぁっ、」

2人の着物が布団に擦れる衣擦れの音に混じって、勝吾の乱れた吐息が溢れた。十六夜の伏し目がちの懸命な表情、豪華に結われた髪とそれを彩る簪が彼の眼下に広がる。

肉塊に芯が入って自立し始めると、触ってくれと言わんばかりに皮膚の中から先端部が顔を出していた。すると、無言の訴えに答えるように彼女の舌が、硬さと共に太さも増大した肉茎から、剥き出しになった肉笠の部分に移った。

滑らかな部分、溝や吹き出し口があって窪んだりする部分の形を確かめるように、ゆっくりと焦らすような動きで舌先を這わされれば、痺れるような疼きが全身を巡る。

熱く濡れた不規則な呼吸に加え、強張っていた四肢や頬の筋肉も弛緩を見せ始めて、勝吾の虚勢を徐々に崩していく。しかし、彼の本能を引き出させる要素はそれだけではなかった。

(今は僕だけの十六夜だ)

悠生以上に深く十六夜の五感に自身の存在を刻み付けられるという、優越感や独占欲が理性の崩壊を助長していた。

勝吾が口腔の湿りや体温に翻弄されて惚けていく中でも、彼女の動きは止まらない。

頬を窪ませて吸い付いたりと、舐めるだけの弱かった動きに、はっきりと鮮明な刺激を混ぜて、彼に飽きの来ない悦びを与えようとする。

(中もこうなっているのだろうか?)

初々しい口使いだが、彼女は勝吾にそんな淫らな想像を抱かせては確実に高みへと導いてた。

蓄え続けて収まり切らなかった濃度の薄い欲液が、十六夜の舌にとろりと滴った。

「っ、」

咥内に広がった男特有の何とも言えない青臭い味に、彼女は眉間に小さく皺を寄せた。嫌悪を彼に悟られないよう、十六夜は口や手を動かし続ける。

先端部やその周辺は唾液を纏わせるように舐めたり、口に含んだりする。天辺の窪んだ吹き出し口に尖らせた舌で、突っつくように刺激するのも忘れない。

一方、咥内に収まらない肉茎の付け根周辺は上下に擦ったり、その下の2つの玉は指先に力を入れて強弱を付けて揉んだりした。

すると、彼女の指や舌が触れた部分から血流が増し、ドクドクと脈も勢いよく流れ出す。

肉塊の反応から濃くなった勝吾の官能を感じ取ると、十六夜は瞼を完全に下ろし、今度は頭を上下に動かして先端でも摩擦運動を始めた。

咥内で唾液を啜ったり、摩擦で混ぜ合わされる音や、頭を動かす時に鳴る控えめな花簪のしゃらんしゃらんとした音が、彼女の奉仕の激しさを表しているようだった。

「はっ、」

乱れた呼吸を溢すと、四肢の痙攣を誤魔化すように、勝吾は眉間や腹部に力を入れた。

混ぜ合わされた異なる感覚が全身に駆け巡った、彼の理性は風前の灯火と化し、張っている虚勢がいつ崩れてもおかしくない状態だった。

最大の質量にまで膨れ上がったと思っていた勝吾の昂りが、更に膨張しビクビクと十六夜の咥内で静かに暴れ出す。

不意に当てられた彼女の舌先が、濃さを増した液体で濡れた吹き出し口に触れた瞬間、彼の理性が音を立てて崩れ落ちた。

「十六夜っ…!」

切羽詰まった熱っぽい声で名前を呼ばれると、吹き出しを塞ぐように押し当てられている舌を振り切るように、彼女の咥内へ忽然と生暖かく粘着質な液体が勢い良く流れ出した。

違和感

「ぐふっ…!」

呼吸の通り道を塞いだ突然の感覚に十六夜は、勝吾の昂りを口に入れて苦しそうに咳き込んだ。

止めどなく流れ続ける液体は咥内には収まり切らず、彼女の口角を伝って垂れて一筋の短い道を作る。

ー自分が十六夜にこんな顔をさせている

男を知らない無垢な彼女を自らの手で汚しているという気持ちが、彼の視界に目の前の彼女の様を淫靡に映していた。

倒錯的に思いながら欲を全て吐き出すと、勝吾は咥えさせていた肉塊をずるっと取り出した。

空気の通り道が出来て、十六夜が閉じていた唇を反射的に開こうとした時だった。勝吾は大きな掌で彼女の口許を覆って、再び呼吸を乱した。

「出すな、飲み込むんだ」

教えるのではなく咎めるような鋭い口調に、十六夜は目を大きく見開きながら背筋に恐怖にも似た感覚が走るのを感じた。

「いいか、十六夜。遊女になった君の仕事は、男の欲望受け入れる事だ。無事に吉原を出たいなら、男に従順になれ」

尖った口調のまま諭された乱暴な言葉に、彼女はただ頭を縦に動かすしか術はなかった。

勝吾の言葉通り、十六夜は歯茎や舌裏にねっとりと絡む液体を、一口ずつ奥へと追いやっていく。

喉を通る度、嘔吐感に襲われるが、堪えて咥内を少しずつ空にしていく。

結局、十数回喉を動かした末、彼女は咥内を満たしていた欲望を空にした。飲み込む動きが止まったのが解ると、勝吾は十六夜の口許を塞ぐ手を離した。

どうしようもない苦痛から解放され、十六夜が安心したのも束の間だった。

「ここはどうなってるんだ?」

勝吾は、半ば放心状態の彼女を布団に押し倒すと、立てた脚を左右に開かせた。長襦袢ごと着物の裾が肌蹴て、剥き出しだった彼女の秘められた部分が彼の前に曝される。

彼は、薄い下生えが覆われた、充血して膨張した肉唇の間に中指と薬指を忍ばすと、秘裂を指先の腹でなぞった。

すると、そこは湿って滑りを持つだけでなく、物欲しそうに小刻みな収縮を繰り返していた。

「男の性器を咥えてこんなになるなんて、素敵な体じゃないか」

彼女の乱れ様を揶揄するように言うと、勝吾は触れている指を生き物のように蠢く裂け目の奥に埋め込んだ。

(……)

言葉で表現できない違和感を感じながらも、更に奥へと指を進めて肉口を拡げていく。

指が感じる十六夜の内壁は、咥内以上に湿りと熱を持っていた。

(やっと、十六夜の中に入れる)

勝吾の気持ちの逸りに同調して、欲を吐き尽くした肉塊に再び精が蓄えられる。

「んっ、」

明らかに色を含んだ、吐息混じりの十六夜の声が耳に届くと同時に、肉口が急に彼の指を強く締め付けた。

布団に肢体を預ける彼女は、恍惚と蕩けた瞳で勝吾を見上げていた。

「だが、客に気を遣るなど遊女の恥だ」

彼は、茹だる程の熱を持つ液体で満たされた、淫路から指を引き抜いた。すると、勝吾は十六夜の顔の両側に手を着いて肢体を支えた。そして、彼女の上に跨がると着物の裾を少しだけ捲って、完全に上を向いた昂りを、指を挿入していた部分に宛がった。

水揚げの瞬間

(これで、十六夜も女になる)

破瓜の相手となる喜びと同時に、客を取るようになるという寂しさを覚えながら、勝吾は固定していた腰をゆっくり進めた。

しかし、その瞬間、勝吾の中で朧気だった違和感の正体が明確な物となった。

「十六夜…」

ー君は男を知っているのか?

続けようとした問いを、彼は口から飛び出す寸前で喉の奥に飲み込んだ。

どうやって妓楼の目を掻い潜ってきたのか、振袖新造で客を取らない彼女が既に男を知っているなど、あってはならない事だった。

だから、詰問したとて十六夜が答える訳もない。しかし、勝吾にとって相手の男の目星を着けるのは容易かった。

ー悠生

その男以外、彼は考えられなかった。

ー自分はもう既に十六夜の破瓜の相手ではなかった

いきなり突き付けられた事実に、勝吾は腸が煮え繰り返るような気持ちになった。

“傷付けて恐怖を植え付けなければ後は一任する”

楼主から水揚げをする前に言われた言葉が、勝吾の頭から薄れていく。

彼は一度先端部を挿入していた昂りを抜くと、十六夜の体を反転させて四つん這いの体勢にさせた。そして、腰を高く持ち上げると、彼女の中を最奥まで一気に貫いた。

「いあぁぁっ…!」

十六夜の全身にミシミシと張り裂けるような痛みが走り、痛々しい悲鳴が溢れ出す。彼女の内壁は、捩じ込まれた太くて硬い異物をぎゅっと圧迫した。

想定以上の、茹だるように蕩けそうな熱さと吸い付きに、勝吾は無意識に眉間に皺を寄せた。それはもちろん、痛みから来る仕草ではなく、強烈な悦楽から来る物だった。

吐精までの時が急激に短くなる。

(まだ出せない)

薄い理性を総動員させると、幾分か緩んだ拘束の中で勝吾は腰を動かし始めた。

「いっ、あっ、勝吾様っ…!」

意図的か否か、彼の突き上げは十六夜に激痛しか生み出さなかった。焼けただれるような感覚に、彼女は顔を埋めて布団の布を強く握り締める。

苦痛しか感じていない十六夜の様子に、勝吾は酷く安堵を覚えると同時に悠生への優越感を覚えた。

「やっ、いあぁっ、」

激情を投げ付けるように、彼の腰の動きが速度と力を増していく。しかし、その動きは何処か乱れているようにも見えた。

奥で鈍く水音を立てながら遠慮なしに蜜路を掻き乱す。

「吉原での男女の交わりに存在するのは見栄や下心、そして最後に残るのは痛みだ」

最奥での動きを止めて、彼は際どい部分まで昂りを抜き出した。

「愛情や快楽は存在しない。だから、」

そこまで口にすると、乱れている気持ちを整えるように深く呼吸をした。

「この行為に何も期待をするな」

最後の言葉を口にしたと同時に、勝吾は抜いた肉塊を根元まで捩じ込んで、最奥を再び突き上げた。

「あぁぁっ…!」

一度彼を受け入れ、肉が多少の弛緩を見せて入り口が拡張したとは言え、十六夜の体から激痛は消えなかった。

凄まじい痛みに堪えきれず、悲痛に満ちた叫びを響かせ、彼女が気を失って程なくしてだった。

勝吾が完全に理性を手放して再び高みへと上ったのは。

「はぁっ、」

劣情の丈を十六夜の最奥に吐き出すと、鈍くなっていた勝吾の思考回路が徐々に正常に戻り出す。

彼女の中から肉塊を引き抜くと、それは2人分の液体で濡れている上、芯を無くして力なく下を向いていた。

肉体の繋がりを断った勝吾は、十六夜の体を仰向けに戻した。彼に抱かれながら何を想っていたのか、彼女の頬には幾筋も涙の跡が残っていた。

それを見た彼は、胸の奥を針で刺されたような痛みを覚え、襟の合わせ目を握った。

「…おめでとう、十六夜。これで君も一人前の遊女だ」

抑揚のない無感情な声に乗せられたその言葉が、静寂な室内に虚しく響く。

ー君を身請けして一生を共にしたい

勝吾の本音は、そのまま彼の喉に飲み込まれた。

 


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